蒼夏の螺旋

  “碧の里へようこそvv”〜夏のわんこたちとコラボ?続編



          




 今年は冬場の雪も物凄かったけれど、それへと挑むかのように梅雨の長雨もなかなかの長っ尻で。
「東京はあんまり降らなかったのにね。」
「それでも曇りの日が多かったろうが。」
 西日本とか日本海側などには、洒落にならない豪雨が寄せたし、外の地域もすっきりと晴れた日は少なく。そういえばキャベツやレタス、キュウリなんかの野菜がとんでもなく値上がりしちゃって、時々は大変だったかなぁと、ひょっこり小首を傾げた小さな奥方。つばの広い帽子をかぶっているその陰が、両方の肩まで覆うほど。そんなまでちょこりと小さなその身を、青々とした芝草の上へと置いていて、小さな手のひらを腰の向こうという後ろ手につき。都心よりかはずんとマシな陽射しの乾いた暑さを、ちょっぴりは我慢もしつつ、それでも堪能しておいで。
「でもサ、ゾロの知り合いの人とかが“お困りではないですか?”って、段ボール箱いっぱいのお野菜とか送って来てくれてたしvv」
 持つべきものは全国津々浦々を網羅している“お友達ネット”ということか。どうか当社の企画にご参加いただきたくと、信念が堅くて昔気質でなかなか頑迷そうな職人さんなどなどを、こちらも誠実さと勤勉さからの、引けを取らないほどもの頑固さで通い詰めて口説き落としたそのおまけ。企画自体が終わってからも、今度はお友達としてのお付き合いが続いている人が多くって。地元以外にはセールスしてなかった、それは美味しい熟成野菜を作ってる農家の方とか。鮮度が命だから都心に持ってってもなと、やはり地元でしか知られずにいた絶品の海産物を獲ってらした漁師さんとかが。全国への宅配なんて事を始められてお忙しくなられても、その手をその気持ちを、今時の若いのには珍しくも粘り強かった彼へと向けること、忘れないでいて下さって。お料理上手な同居人がいるんですよと話したことを、やっぱりいつまでも覚えておられた方々は、季節の折々、美味しいものをどっさりと送って下さるのを忘れない。…なので。ルフィ奥様、どうかすると旬のお野菜の“標準価格”が判らないこともしばしばだとかで、
“贅沢極まりない“困った”だよねvv
 うふふんと笑って、さて。
「あ〜、やっぱり暑いや。」
 いくら涼しい風が吹いているとはいえ、さすがに堪らなくなったのか。日光浴はここまでとばかり、それは俊敏な動作にて、撥ねるように立ち上がると、芝草のついたろう短パンのお尻を払いながら、テラスへと戻って来、
「なあなあ、知ってたか?」
 言う前からいかにも楽しそうにくすくすと笑いもってる奥方へ、
「知らねぇよ。」
 ちょっとだけ目許を眇めた、こちらもランニング型のタンクトップに七分丈の更紗のパンツという、いかにもリゾート系のいでたちなご亭主へ、
「八月中の週末全部、隣り町の川沿いで花火の打ち上げがあるんだってよ。」
「へぇ〜?」
 隣り町はどっちかって言うと、日帰りとか1泊とかで避暑に来るような観光客を当て込んだ、温泉施設とかイベントパークとかペンションとかがメインのトコだから。毎晩は勘弁だろけどそのくらいだったら、客寄せにってことで出来るんだろうねと。さすがは敏腕やり手なイベントクリエイターの奥方らしく、一丁前なことを言ってみたりするルフィであり、
「隣り町の川沿いってことは…。」
「そ。此処だとネ、わざわざ行かなくても、お庭とかから十分に観れるんだってよ。」
 観れるじゃなくて、観られる、だぞとの訂正をいただいてから、
「何でそんな話、お前が早々に知ってんだ?」
 ここへは昨日のお昼に着いたばかりで、一応10日間だけだが新聞を届けてほしいという依頼はしてあったが、ラテ欄以外を読む奥方でなし。仕事を離れるとPCにも触らない自分と違って、情報集めは今時の標準レベルで得意そうな彼だとはいえ、結構バタバタした出発になったのでそんな余裕はなかったはずで。テレビで宣伝していたか、それとも駅前の掲示板でも見たのかと訊けば、
「るうちゃんチの坊やに教えてもらった。」
 脱いだ帽子でお顔を扇ぎつつ、うふふvvと笑って見せる奥方。
「中学生くらいなのかな、童顔で小柄なんだけど、木登りとかが得意のお元気な男の子でサ。」
 でもネ? まだまだ小さい弟くんがぴと〜〜ってくっついて来たりするの、しっかり面倒を見てあげてたりして。凄っごくいい子なんだよね〜と、大人ぶっての感心をして見せる奥方へ、
「ああ、何か凄い文豪の息子さんと同居してんだってな。」
 こちらさんは、仕事から離れた途端に周囲への検索とか詮索とか、ぱったりとやらなくなるご亭主が、それにしては珍しくも…情報を得ていたらしいお言いよう。

  「…ルフィに少しほど似てるんだってな。」

 おやおや、やっぱり。
(苦笑) きっと大方、外を歩いていたりしたところを、あちらのご家族と間違えられてのお声かけがあったりし、どういうご一家何だろかと基礎だけ浚ってみたのだろうて。
「うん。そうみたいだ。」
 俺も るうちゃんやカイくんとお散歩していたら、そこここで向こうのるふぃくんと間違えられたものと、うくくvvなんて楽しそうに笑うルフィであったりし。………ご本人にはあんまり“極似”だっていう自覚がないんですね、やっぱり。
(苦笑) そんなこんなとお喋りしているところへと、
「…お?」
 ワタシも混ぜてというノリにて、軽やかな電話の呼び出し音がした。勿論の必需品の携帯電話も持って来てはいたけれど、少々山間(やまあい)という土地だ、ルフィが一応籍を置いてる、経営コンサルタントの事務所との急な連絡があっても困るしということで。ノートパソコンを接続して使うのにも支障が出ませんようにと、固定タイプの電話を一カ月分だけと、使用契約を結んでおいた周到さよ。
“…でも、だからってことから、そうそう誰にも彼にも、番号は言っておいてないんだがな。”
 あくまでもこっちからの使用を優先的に考えての処置だったからで。ということは、早速にも事務所からルフィへの連絡なんだろか。だとしたら、
“………あんのグル眉野郎がよ。”
 せっかくのバカンスへ水を差されたような気がして。はいはい待ってと声を出しつつ、リビングへ駆け込んだ小さな背中を追いながら、その目許を眇めてしまった旦那様。だってルフィのことだから、このお出掛けの話だって、ナミさん辺りへとうに自慢しているに違いない。だからと掛かって来た電話なのなら、さっそく割り込むかとムッと来た、何とも判りやすいご亭主だったが。そんな彼から見えるところへと据えてあった、洒落たデザインながらも多機能なお電話。
「はい、ロロノ…。」
 受話器を手にしたルフィが、こちらの名前を名乗るより先に放たれた第一声が、

  【ルフィっ?! ルフィか?】

 おおう。やっぱりビンゴだったみたいでございます、ロロノアさん。
(笑)  ちょっとした事情があってのこととはいえ、この愛しい従兄弟くんを、学生時代という可愛い盛りの7年間も、異郷の空の下で独占し…もとえ、保護していて下さった金髪痩躯のお兄さん。すったもんだがあった末、今現在は…欧州の某国に居を据えて、相変わらずに世界を股にかける規模にての、経営コンサルタントのお仕事に勤しんでいらっしゃる彼なのだが。ルフィへの猫かわいがりはなかなか止むことがなく、何かというとこちらの新婚所帯へ…水を差したりちょっかいをかけたり。退屈しないで済むような波乱をまで、時たまご提供下さってもいる次第。さりとて、
「サンジ? どしたの? お仕事の話?」
 俺も有給取ったのに〜と、そこはルフィの方だとて、当たり前のこととしてお邪魔の入らぬ骨休めをしたかったらしく。急なことでもビジネスの御用だったらヤダな〜と、ちょっぴりゴネるような言いようをしたところが、
【何を言ってんだ。お休みに仕事なんかさせる訳がなかろうよ。】
 そこのところはさすがに、聞き分けてらしたサンジェストさんだったようですが、
【ただな? ナミさんが言ってたが、お前、そんな何にもないとこへ二人っきりで居るんだと?】
「そだよ、二人っきり〜vv////////
 どうだ参ったかとは、どういう言いようなんだか。相手には見えないのに、笑顔全開のまんまで むんっと胸を張ってまでした奥方だったが、

  【何を考えてやがんだ、あのマリモ野郎がよっ!】

   ………………はい?

 この反応には、ルフィの大きな眸も思わずの点になっており。
「サンジ?」
【 だからっ。もしかしなくとも、賄いの人とか雇っちゃいないんだろうがよっ。】
「あ、うん。そういう人は居ないけど…。」
 だってたった10日のことだしと、続け掛かったルフィに先んじて、
【 それじゃあ、全然お前の休暇になってないじゃないか。】
 これだから 頭の固いジャパニーズ・ビジネスマンはよ〜〜〜っと。苛立たしげに一頻
しきり凄んでから、
「…サンジ?」
【 今、東京上空を通過中だから。】
「はい?」
【 ビッグバード経由でそっちまで、今日中には着けると思うから。】
 どういう飛行機での通過中なんでしょうかと、眸が点になったままなルフィへと、勢い込んだままのお母様、
【 休みの間の“おさんどん”をお前にやらそうって不届き野郎に、説教してやらんと収まらんのでなっ!】
「えっ? あ、ちょっと、サンジっ、あのっ!」
 そんな大層なことじゃないってと諭したかったが、
【 着陸するそうだから、一旦切るぞ。】
「サンジ〜〜〜〜っ。」
 相変わらずに一方的な、GOGO強引グなお母様。あっさりと切れてしまった受話器を呆然と見下ろしたルフィであり、そんな彼へと…ゾロがピロリンと、1枚のプリントアウトを差し出して見せる。
「…パソコンの方に届いてたぞ。」
 PC教室のお友達へ、こちらで撮った緑のお写真などなどを送るため、メーラーを呼び出したままで居間へと広げてあったところへと、新着メールが入ってたらしく。何げに見やったのだろうゾロが…ついつい固まったのは、

  『ルフィへ。
   ごめんなさい、あたしでは制止出来ませんでした。
   何やら激発していたので、
   まずはのご迷惑を再会のご挨拶前におかけすることと思いますが、
   適当にあしらってやって下さると幸いです。』

 簡潔で分かりやすいのは、要領を得ていてこそ…と言って良いやら悪いやら。さっき唐突なお電話を下さったお兄さんの、奥様からのお触れ書き。日帰りか2、3日で帰るって言ってたから、ごめんなさい、我慢してやって。10日丸まる居座るなんて言い出したなら、それこそこっちから私設SPを総動員してでも迎えに行くから大丈夫。帰って来たらばみっちりと、ベルと二人掛かりで叱ってやるのでどうかご容赦…なんて締めくくってはあるけれど、
「ナミさんたら〜〜〜っ。」
 結局は野放しってコトですね、あのお母様を。
(おいおい・笑)自分には甘いがそれ以外へは…殊にゾロへは当たりのキツいサンジだということ。ルフィもさすがにこのごろは、気がついてるし 気が引けてもいて。
“何でそこへと気が回らんのかね。”
 結果、大切にしたい対象をも傷つけてしまうのにね。それを思えば…旦那様とて、自分とあの彼とが喧嘩ばかりするのは、ルフィには苦しいばかりだろうと判るので。

  「ま、過激なアトラクションが加わると思えばいいさね。」
  「………ごめんね、ゾロ。」

 まったくもうもう、大人げないんだからと。ぷんぷん怒ってる奥方の、丸ぁるいおでこへ、啄むようなキスをして。今のところは余裕のご亭主みたいでございますけれど。さぁさ、一体どんなバケーションになりますことやら。戦々恐々な、此処、箱根○○町リングサイドからお送りしておりますvv
(こらこら)





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  *お話の中で日記みたいにお日和の話を持ち出すと、
   それを塗り潰すかのように、全く別な空模様になったりするんですよね。
   書き始めた時と終えた時の窓の外が全く違って、
   『あれ? 何でこんな描写で始めてたんだろ?』
   なんてことも結構あって、
   お天気にさえ手玉に取られている奴です。
(苦笑)
   ちなみに今は、台風が3つも来ているそうですが…。